2014年1月29日水曜日

Rihanna『Unapologetic』(2012)

先日2014年グラミー賞の授賞式が行われ、このアルバムが見事「Best Urban Contemporary Album」を受賞しました。過去にシングルでの受賞はあるものの、アルバムでのグラミー受賞は初めてのこと。ビルボードチャートで初めて1位を獲得した作品でもあり、このアルバムの完成度の高さを伺わせる結果と言えそうです。

ということで、今回はリアーナのこのアルバムを取り上げたいと思います。

まず、グラミーでの件のカテゴリーについてですが、これは昨年から創設されたR&B分野のサブカテゴリーで、現代的な要素を含むR&B作品であり、その中にはアーバンポップ、ユーロポップ、ロック、オルタナティブといったプロダクション要素を取り入れたものであってよいとの規定があります。時代の流れに従って多様化するR&Bミュージックへグラミーが対応したということでしょうね。ちなみに、2012年までは「Best Contemporary R&B Album」というカテゴリーが存在しましたが、こちらの方は「Best R&B Albums」に吸収される形となっています。

さて、話をリアーナに戻しまして、2005年にデビューして以来、ほぼ1年に一枚のペースでアルバムをリリースし続け、今作で7枚目のアルバムになります。ここまでハイペースでリリースを続けるアーティストは全米では稀有な存在であり、それを可能にする彼女の勢いというのは破格であると言えるでしょう。さすがに去年は一旦小休止ということでアルバムをリリースしませんでしたが、アルバムからのシングル・カットにエミネムやワーレイとのコラボなどでチャートを賑わせ、相変わらずの存在感を提示しています。

そんな彼女ですが、ハイペースでのリリースを可能にする理由として、本人はあまりソングライティングに関与していないということが上げられるでしょう。いまやアイドルでも楽曲制作にかかわるのが当たり前の音楽業界ですが、そこで敢えてヴォーカリストに徹することで、制作のプロセスは簡略化されます。もちろんそのためには本人が納得できるような魅力的な楽曲の提供が必要なわけですが、これまでの作品を見ていても、幅広いプロデューサーと手を組んで、つねに最新のサウンドを取り入れた作品を制作していることがわかります。むしろ、そうして旬のトレンドヒッターと手を組めることが彼女の強みと言えるのではないでしょうか。

そうして快進撃を続ける彼女の通算7枚目のアルバムですが「Unapologetic=弁解しない」という強気なタイトルを付けてきました。ジャケ写は上半身裸のこれまた大胆かつシンプルなもの、前作もそうですが挑発的なアートワークにより、当初のアイドル的なスタンスから新たなステージへ向かおうとする意思が伺えます。

それでは、中身を見ていくことにしましょう。

(1)Phresh Off The Runway
イントロからシンセの音が強烈なテクノっぽいナンバー。デヴィッド・ゲッタ、ジョルジョ・トゥインフォート、ザ・ドリームによる強力タッグで、フックではザ・ドリームが「phresh out the runway」と呪術的に何度も唱えるなど、インパクト勝負なサウンドだなと思います。リアーナの畳み掛けるようなヴォーカルも挑戦的、とにかくこれまでと違うことを示すような、フレッシュな出だし。

(2)Diamonds
リードシングルとして発表され、当然のように全米チャート1位に輝いた一曲。これまでリード曲としては「Only Girl (In the World)」「We Found Love」のようなキラーチューンで勝負してきた彼女だけに、こうして地味系の楽曲をリリースしてきたのは意外だったのですが、さすがに同じようなテイストを続けるのはよくないと判断したのでしょう、これが功を奏したようです。リスナーにしてみたらまたもやリアーナのマジックにハマったような気になりますね。リアーナと相性のよいスターゲイトとベニー・ブランコが共同プロデュース、リアーナの中低音ヴォーカルを上手く活かしたミディアムテンポのポップバラードになっています。歌詞は「わたしたちはまるで空に輝くダイアモンドのよう」と、これはストレートなラヴソングですね。

(3)Numb feat. Eminem
エミネムとのコラボ再びなのですが、これまた挑発的なサウンドで驚きです。民族楽器の音とヒップホップ的なドスの利いたベース音が基調となった、ダークでヘヴィーなサウンド、そしてリアーナは数行のヴァース意外に、ほとんど「I'm Going Numb(感覚がだんだん失くなっていく)」としか歌っていないというミニマルなつくり。しかも、その歌詞はちょっとドラッグの高揚感を思わせる節があって、際どい所を狙っているなあと思いますね。

(4)Pour It Up
こちらもダークでヘヴィーなサウンド。マイク・ウィル・メイド・イットのプロデュースで、いかにもマイク・ウィルな感じなのだけど、歌詞はひたすら「わたしにはお金があるのよ」っていう悪態媚びたような内容。PVでもお札をばら撒いていますね。

(5)Loveeeeeee Song feat. Future
フューチャーの昨年の活躍を見ると、この時点での起用には先見の目があったと言えるでしょうね。どっちが主役がわからないくらい、彼のロボチックな声を大胆にフィーチャーしています。どう聞いてもこの曲、リアーナが客演の方にしか聞こえないですよw 曲はメロウでいいと思うけど、ここまでフューチャーありきってのはどうなんでしょうか。

(6)Jump
ジェニュワインの96年「僕のわんぱくポニー」を引用した楽曲。とは言え、原曲とはあまりに雰囲気が違うので、言われないと気づかないというレベルではあります。スターゲイト、チェイス&キャッシュらがプロデュース、ダブステップ調のナンバーで、ポニーが駆け抜けるように迫ってくるリズムがインパクト大な一曲です。今回はいつになく「攻め」なサウンドが多いです。

(7)Right Now feat. David Guetta
一曲目に引き続きゲッタさんがプロデュースに関与しているのだけど、なぜこちらの曲にはフィーチャリングのクレジットがあるのかよくわかりません。サウンドはベタにEDMなんだけど、なんだかせわしない感じもします。ニーヨやザ・ドリーム、スターゲイトも関与していて、残念ながらシングルヒットしませんでしたが、これまでのリアーナのヒット曲の延長にあるようなポップさを備えた一曲だと思います。

(8)What Now
ピアノ主体のミッドテンポのバラード。リアーナが彼女にしては珍しくエモーショナルな歌唱を披露しています。後半の畳み掛けるようなパートではうねるギターの音の導入され、ポップ要素の強い一曲。歌詞は失恋についてですね。

(9)Stay feat. Mikky Ekko
ピアノ一本とギターで勝負した、しっとりしたバラード。セカンドシングルとしてリリースされ、全米3位まで上昇するヒットを記録しています。フィーチャーされているミッキー・エッコーは新進気鋭のシンガーソングライター、どういうきっかけで彼を知ったのかわかりませんが、こういう無名の歌手を大胆に起用する辺りに彼女の大物ぶりを感じ取ることが出来ます。歌詞はとても繊細なラヴソング。

(10)Nobody's Business feat, Chris Brown
ハネるようなピアノと4つ打ちのビートが軽快な、ディスコティックなダンスナンバー。そして、「まあ、そうなるだろうなあ」とある程度予想のついたあのクリス・ブラウンとの共演。マイケル・ジャクソン曲を引用していて、ブラウンもマイケルっぽい歌いまわしを披露、さすがの相性の良さなのが皮肉なのだけど、歌詞も二人の関係を示唆するような内容に読めますね。

(11)Love Without Tragedy / Mother Mary
二つの曲が連なったナンバー。前半は80年代を彷彿させるようなポップスで、後半はエレクトロニックなポップス。フックがなく、とりとめない感じで終わっていきます。

(12)Get It Over With
ここ数年のトレンドでもあるアンビエントなサウンドを取り入れた、ミディアムテンポのR&B。ビート感はなく、シンセ音とヴォーカルが主軸で、浮遊感のある仕上がりになっていますね。

(13)No Love Allowed
ストレートなレゲエです。毎回一曲はこうしたテイストの曲を披露してくれていますが、バルバドス出身の彼女だけに、こうしたルーツを大切にする姿勢には好感が持てます。そして、これをベテランのNo. IDがプロデュースしているというのが意外であります。

(14)Lost In Paradise
ラストは、力強いEDM調の曲です。困難に立ち向かっていく、そんな強さをリアーナらしい声で歌い上げていますね。


全14曲収録。デラックスは新曲1曲にリミックス2曲、DVD付属という仕様で、あまり魅力的なパッケージではない気がします。

正直言うと、このアルバムを購入してからしばらくはこのアルバムの音をあまり受け付けられず、全部をまとめて聞くのには時間がかかったのを覚えています。ある程度期間をおいて、なんとか聞けるようになったという感じですね。

それがなぜなのかわからないのだけど(音楽はフィーリングだからね)、おそらく従来のわかりやすいリアーナ像というのがあったせいで、今回の急進的なサウンドアプローチについていけなかったということなのだろうと思います。それだけ、今作のリアーナは攻めているということです。

その分、ポップでない部分があったのは否めないし、何よりリードシングル「Diamonds」が耳障りのいい楽曲だった分、アルバム全体の印象とのギャップが大きかった。フタを開けてみたら、「ありゃああ」みたいなねw 

ただ、ここまで大胆にいろいろなサウンドを取り入れて一つの作品にまとめられるアーティストもそういないわけで、彼女が本作品で初のアルバムでのグラミーを授賞したのもうなずけるところではあります。

次はいったいどんな作品で勝負してくるのか、これまた楽しみではありますね。



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